「源氏物語 須磨」(紫式部)

かつての源氏とは一味も二味も違う

「源氏物語 須磨」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

政敵・弘徽殿太后の謀略により
官位を剥奪された源氏は、
さらなる処分の及ぶのを
避けるため、
須磨へ退居することを決意する。
かつて在原行平が
流謫されたという地の近くに
わび住まいを構え、
風流に寂寥を紛らわせる
源氏だった…。

朧月夜との密会が発覚し、
右大臣側からの圧迫が強まった結果、
源氏はついに京を脱出する
決意を固めるのです。
流罪の沙汰が出る前に、
自ら京を出て恭順の意を示すためです。
本帖「須磨」を味わうためには、
当時の「流刑」について
理解する必要があります。

平安の時代の刑罰には、
死刑制度はありませんでした
(詳しくは分かりませんが、
平安時代は日本の歴史の中では珍しく
死刑停止時代だったようです)。
したがって流罪が最高刑となるのです。
問題は
「どこに」流されるかということです。

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最も遠い地としては
北九州の太宰府です。
菅原道真が流された(901年:昌泰の変)
ことで有名ですが、
実はそれ以後も起きています。
969年(紫式部による源氏物語執筆期
以前)の「安和の変」です。
天皇に対する謀議を図った罪により、
源高明が太宰府に流されているのです。
実はこれは藤原家による陰謀で、
これによって天皇の外戚は
藤原氏のみとなり、
以後の摂関政治につながる
権力の固定化が確定したのです。

作者・紫式部は、この「安和の変」を
下敷きにして、源氏に起こりうる
最悪の事態を「太宰府流罪」と
設定したのでしょう。
彼の地まで流されてしまえば、
菅原道真や源高明同様、
政権復帰はおろか、
京都帰還も絶望的となるのです。

流罪の追加処分を避けながら、
将来の失地回復の余地を
残しておくためには、
できるだけ辺鄙でありながらも
都から遠く離れた地では
いけなかったのです。
そのための「須磨」だったのです。

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それにしても、
「自身に降りかかった危機的状況を
適切に把握できる観察眼の正確さ」
「最悪の事態を想定して行動できる
危機管理能力の高さ」
「困難な状況下にあってなお成長戦略を
捨てない将来設計の確かさ」等々、
この「須磨」の帖では、
現代にも通じる源氏の
経営者としての能力の高さが
至るところに示されています。
「帚木」「空蝉」で描かれていた源氏とは
一味も二味も違います。

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「賢木」ですべてを失った源氏は、
一回り器を大きくしました。
そしてこの「須磨」を経て
次帖「明石」でさらなる成長を遂げ、
都へと凱旋するのです。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.4.11)

My pictures are CC0. When doing composings:によるPixabayからの画像

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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